パルシステム派遣切りの経緯

某ライターがパルシステムで派遣切りをされた酒井さんを取材して、これまでの経緯をまとめてくれました。
少し長くなりますが、引用してご紹介します。


「正社員にとっては当たり前の昇給、賞与、交通費、退職金、派遣にはありません。時給は上がらず保険料などは上がり年収は減る一方、そして簡単に使い捨てられる、それが派遣です」。
 3ヶ月という短い契約を繰り返し更新して7年間、同じ派遣先で働き、雇い止めされた酒井桂さん(42歳)は、2014年1月の寒空の下、厚生労働省の前でこう訴えた。
 労働者派遣法の見直しを議論している厚生労働省の労働政策審議会の部会に合わせて、ナショナルセンターの連合が、厚生労働省前で集会を開いた。提案されている内容で労働者派遣法が変えられると、3年ごとに派遣労働者を入れ替えさえすれば、派遣先の会社はいつまでも派遣を使い続けられるようになり、今以上に正社員が派遣と置き換えられることが危惧されている(2014年2月現在の労働者派遣法では、専門的とされる26業務以外の業務では原則1年、最長3年という期間制限が設けられており、これを超えて派遣労働者を受け入れる企業は、派遣労働者に直接雇用を申し込む義務がある)。
「派遣労働者にとってのメリットはなんですか。何一つありません。当事者の声を聴きましたか。現場に行きましたか。誰の声を聴いていますか。あなたたちは短い契約が人質という雇用差別、年収200万円以下の生活をしたことがない。想像すらしようとしない。企業や経営者、人材派遣会社の都合のよいことばかり聴き入れるのは、おかしい」。
 酒井さんは、派遣切りに遭った当事者として連合の宣伝カーの上に立ち、このとき出されていた公益委員案を渾身の力を込めて批判した。
■事務用機器操作に該当しない一般事務
 酒井さんは、服飾関連の専門学校を卒業後、百貨店の正社員として販売業務に従事した。バブル崩壊の影響で仕事が先細りしていくのが分かった。4年ほどして、事務職への転職を決意する。
 3社で正社員として営業事務や一般事務として働き、職場の事情で退職した2003年、32歳のとき。いくら就職活動をしても正社員の仕事に就くことができなかった。そのうちに生活が維持できなくなり、初めて派遣会社に登録した。一般事務や受付業務などで2社に派遣される。派遣先の公共施設が民営化により仕事がなくなることになり、2006年2月、35歳のときにパルシステム生活協同組合連合会(以下、パルシステム)に派遣されることになった。どれも派遣労働者の多数を占める、派遣契約があるときだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣だった。
 パルシステムは、個別配達に特化した日本最大の生活協同組合の連合会だ。登録している派遣会社から、「面接がある」と言われ、派遣会社の担当者とパルシステムを訪れ、派遣先の担当者に会った。ちなみに労働者派遣法では、派遣労働者を派遣先が選ぶための事前面接は禁止されている。
 派遣先では、特定のパソコンソフトを使う業務があると言われ、酒井さんが、「使ったことはない」と答えると、「大丈夫。初めからフォーマットはできている。専門的な仕事ではない」と説明された。派遣契約書では、期間制限のない専門26業務の一つで事務用機器操作とされていたが、実際に酒井さんが行っていたのは専門性の低い一般事務だった。事務用機器操作とは、専門的技術を活用して入力、集計、グラフ化などの作業を一体のものとして行うことを指す。パソコンを使って作業をするだけでは、事務用機器操作とはいえない。契約期間は当初1ヶ月、その後3ヶ月という短い契約を繰り返し更新して働いた。
 酒井さんが、派遣会社の担当者に「なぜ、3ヶ月という短い契約なのか」と聞いても、「それがパルシステムのやり方だから」という答えが返ってきただけだった。酒井さんは、その前の派遣先では1年契約で、3ヶ月という短い契約は、パルシステムが初めてだった。
 2009年からは別の派遣会社に登録し直し、同じパルシステムの商品企画部でそれまで通りの業務を行ってきた。酒井さんは実際の業務についてこう説明する。
「朝10時に出勤すると、まず朝礼に出席し、メールをチェックし、売り上げのデータを取り込んで、コピーをしてフォーマットが決まっている所定の欄の中に貼り付ける作業をします。そのデータを紙に数部プリントアウトして、担当者に配布をするといった作業を2時間程度行い、作業の傍ら、紙に印刷をされた校正用のカタログを担当者9人に配布して歩きます。その間に、電話の取り次ぎを少なくとも2、3件は対応していました」。
 さらに、月に1回は、1日に2回、給湯室の掃除および茶番の補充、ふきんとぞうきん洗い、コーヒーメーカーでコーヒーを作ることやポットのお湯足しなどを当番制で行った。
 午後は、配布した校正用のカタログの内容を確認や校正、取引先のメーカーに連絡事項のファクシミリを送信している。また、売り上げ実績の数字の入力作業を行う。登録作業と呼ばれる元のデータをコピーをしてフォーマットが決まっている所定の欄の中に貼り付ける作業も行う。つまり、事務用器機操作に該当しない業務がほとんどである一般事務との複合業務であり、期間制限(原則1年、最長3年)を受ける業務だった。
■「活動家一丁あがり!」講座の講師を務めた理事長に質問!
 酒井さんは、埼玉県の実家から、東京都新宿区のパルシステム本部まで通勤していた。正社員のときは、手取り月20万円、年収240万円で交通費も支給されていたが、派遣で働くと、手取り15万円、年収180万円程度で、交通費も支給されなくなった。パルシステムに派遣される前に父が亡くなり、年老いた母と二人暮らし。酒井さんの派遣の収入と母のわずかな国民年金を合わせて何とか生活を支えてきた。
「パルシステムでは、直接雇用の正社員や契約社員、パートタイマーに支給されるボーナスも出ません。交通費は出ない、健康診断も予防接種も受けられない、割引のある社内弁当も派遣は注文できませんでした」。
 派遣以外の職員は、600円程度の弁当を300円で注文することができた。酒井さんたち派遣労働者に弁当の注文用紙が回ってくることはなかった。昼食用に材料を節約して作った弁当を持参し、100円ショップでパンを買って食べることもあった。
 職員が目にする連絡用のポータルサイトには、「ボーナス支給」「賃金アップ」「健康診断」のお知らせが掲載された。派遣は常に対象外だった。派遣の待遇について他の職員が話題にすることもなく、職場の労働組合にも加入できなかった。
「通勤費も、半年間の通勤定期を買った方が得でしたが、そのお金がなかなか用意できません。無理をして定期を買っても、途中で『要らない』と言われたらと思うと、買うに買えませんでした」。
 パルシステムは、「食の安全」と「持続可能な社会づくり」をテーマに事業を展開していると謳っており、社会問題に積極的に取り組んでいることでも知られている。2008年秋には、リーマンショックのあおりを受けた派遣切りによって寮を追い出され、仕事も住まいも失う労働者が続出した。年末年始に路上に追い出される派遣労働者たちに屋根と食事を提供しようと、労働組合やNPOなどが中心になって東京都内の日比谷公園で、「年越し派遣村」を設置した。
 パルシステムも「年越し派遣村」へ食料の提供を行って支援。2009年には会員生協の組合員に「派遣切り等に伴う失職者支援カンパ」を募った。
 3ヶ月契約という不安定な雇用。身分差別ともいうべき正規職員との待遇の格差。貧困問題を支援するパルシステムで、ワーキング・プア状態で働く自分。酒井さんは、この様子を複雑な気持ちで見ていた。
 ちょうど、社会活動家の湯浅誠さんが『反貧困 「すべり台社会」からの脱出』を出版し、日本にも貧困問題が存在することを告発していた。
 酒井さんは、テレビで湯浅誠さんの存在を知り、自分自身の問題として労働と貧困の問題に関心を高めていった。
 2012年5月から、南北問題の調査活動などを行うNPO法人アジア太平洋資料センター(PARC=パルク)が、「社会にモノ言うはじめの一歩 活動家一丁あがり!」講座が開設されたのを知り、受講した。テーマは「労働と貧困」。湯浅さんたち活動家が中心に運営していた。
 6月の講座で、パルシステムのが山本伸司理事長が講師を務めた。酒井さんは、山本理事長が、生協として働く人にいかにお金を回すか、といった話をするのを聞いた。6年間働いていたパルシステムの理事長の話を聞くのは、これが初めてだった。
 酒井さんは、会場から質問をしてみた。
「私は、3ヶ月契約の派遣で6年間働いている低所得者です。派遣先はパルシステムです。このような状態を脱却したいです。雇用の不安を少しでも軽減するために、せめて3ヶ月契約ではなく1年契約にしてキャリアアップ制度を作ってほしいです。そのような話し合いの機会を作っていただけませんか」。
 山本理事長は、「管理形態(の悪さ)が、パルシステムをむしばんで、管理者が守りに入っている。管理形態のせいで、あなたをそういう処遇にしてしまっている。なにかしかけたい」「(派遣労働者はパルシステムの企業内組合に入れないから)外部の組合に入って外から圧力をかけてほしい」「パルシステムの派遣が3ヶ月契約だとは知らなかった」などと応じた。
■「メリットがない」と言われ衝撃を受ける
 山本理事長の言葉を受けて、酒井さんは、早速、「活動家一丁あがり!」講座で知り合った労働組合の関係者に、待遇改善をしたい、と相談してみた。
 ある合同労組の役員は、「アクションを起こすには、同じ職場の同じ立場の人が必要。3人集めないと動けない」と言った。合同労組の原則的な対応ともいえるが、酒井さんにとっては現実的ではなかった。酒井さんは、職場の派遣労働者に声をかけてみた。口々に「そこまでする気ない」と言われる。会社に圧力をかけるイメージがあるのか、「労働組合? 右翼?」と言われ、反発されたことを感じた。この様子では、団体交渉の申し入れをする前に、パルシステムに知られてしまうと思うと、何も言えなくなった。
 別の個人加盟の労働組合の役員は、「今の状況で直接雇用を求めるメリットがない。他の派遣に迷惑がかかる。派遣は使っていられないと、他の派遣もクビを切られたらどうするの」と言った。「メリットがない」という言葉に衝撃を受けた。
「ここには加入できない」とがっかりしたが、最初からできないと言ってくれたのはよかった、と後で思うようになる。
 2012年7月、地元の労働組合に相談したところ、「できるよ」と言われ、藁をもすがる思いで加入した。専従の職員はおらず、定年後のボランティアとして活動しているようにみえる高齢男性が窓口となって対応していた。労働組合といっても、革新政党の活動が目立ち、労働組合の活動はあまり活発に行っていないことが徐々に分かった。
 担当になった男性は窓口を務めるだけで、専門的な判断はできず、別の高齢男性に判断を求めた。その連絡に数日を要した。
 加入から3ヶ月がたった10月、パルシステムに対する団体交渉申し入れ書を法律書を見ながらようやく作った。1回目の団体交渉申し入れは、雇用関係がないとして断られた。労働組合の担当者は、12月までの契約が更新されるかどうか様子をみて、再度申し入れをしようと言う。
 何とか2013年1月から3月までの雇用契約が更新された。すると労働組合の担当者は、なぜか、酒井さんに、団体交渉を断ってきた役員と話をしてみるよう指示した。人事担当者からは「困る」として、社員になりたかったら何度でも中途採用試験を受けろと言った。
 2回目の団体交渉申し入れの後、派遣会社から「契約更新されなかったため3月で雇い止め」だという通知が届く。地元の労働組合は、どう対応してよいのか分からない様子で、「弁護士に相談しよう」と言うものの、担当者は時間がなくてなかなか動けないという。
 酒井さんは、2月上旬に湯浅誠さんを応援するオフ会で知り合った活動家に、地元の労働組合の対応について話したところ、「派遣の対応に慣れていないようにみえる」と言われていた。その活動家に「実は、雇い止めをされてしまった」と相談。労働組合の東京ユニオンを紹介され、すぐに加入した。
■一人の派遣切り問題にも取り組む組合があったからこそ
 東京ユニオンは、実態は専門26業務ではないので期間制限違反だとして、パスシステムに酒井さんを直接雇用するよう求めて、団体交渉を要求した。さらに、派遣会社に対しても期間制限違反で働かせたことについて責任をとるよう合わせて要求した。
 派遣会社とは早い段階で和解し、一定の保障をさせることができた。しかし、パルシステムは、雇用関係にない、契約上は26号業務だったなどとして団体交渉を拒否した。東京ユニオンは、団体交渉拒否について、東京都労働委員会に不当労働行為救済申し立てを行いながら、毎週争議行動を行っている。
 争議化から間もなく1年。労働委員会にも決定権限がなく、メッセンジャーのような対応をする人事担当者と代理人の弁護士だけが出席している。酒井さんは言う。
「パルシステムの当事者意識のなさに驚いています。派遣村を支援して、派遣切りに遭った労働者へのカンパを呼びかけながら、足下では長年不安定雇用の派遣労働者を使い続け、都合が悪くなったら簡単に切り捨てる。パルシステムは、貧困問題への取り組みを、自分たちとは違う世界のかわいそうな人を善意で助けるというものだと勘違いしているのではないでしょうか。自分たちの組織で、不安定雇用による貧困を生み出していることへの当事者意識がなさ過ぎます」。
 東京ユニオンは、仮に当事者意識の薄い貧困問題への取り組みであっても、それをしているパルシステムに配慮し、自ら気づいてほしいという願いから、この件を社会問題化させることには慎重だった。しかし、1年近く経っても当事者性を持てず、企業でいえば経営陣にあたる理事たちは権限を持って解決に踏み出すことができずにいる。
 パルシステムの生協組合員のなかにも酒井さんの支援を申し出る人がでてきた。争議も山場にさしかかり、東京都労働委員会での不当労働行為救済申し立てが、和解交渉を目的にしたあっせんに切り替えられた。和解交渉が決裂すれば、より激しい争議が繰り広げられるだろう。
 派遣切りに遭った一人の派遣労働者のために、力を尽くし交渉、労働委員会への申し立て、粘り強い争議に取り組む労働組合の姿勢が、一人の派遣労働者を強くした。
「派遣には、身分差別がまかり通っています。正社員は、派遣の待遇は人ごとだと思っています。派遣会社の意向を受けた内容で派遣法が改正されてしまえば、正社員は今以上に派遣に置き換えられ、後戻りできなくなるでしょう。今は、パルシステムがやった期間制限違反について争うことができています。でも、派遣労働者だけを3年ごとに入れ替えて、ずっと派遣を使い続けられるようになれば、私のような派遣労働者は、ずっと派遣のまま我慢して働いて、3年ごとに職場を転々とすることになります」。
 酒井さんは、派遣法の規制緩和をめぐる攻防のなかで堂々と発言し、今は正社員で働いている人にも当事者意識を持つよう求めている。正社員自身の雇用を守り、子どもや孫の世代の雇用を守るために。
プロフィール

書記長・関口

Author:書記長・関口
東京ユニオンは働き方などにかかわらず、一人でもだれでも入れる労働組合です。ひとりで悩まずにご相談ください!
電話:03-5354-6251(祝・祭日を除く毎週火・木曜の18時~21時を集中相談に設定しています。お急ぎでない方は、この時間帯にご連絡ください)

月別アーカイブ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR